川崎病に対する血漿交換療法

血漿交換療法とは

血液中には、白血球、赤血球、血小板といった細胞成分に加え、電解質、タンパク質、凝固因子などの様々な物質が含まれています。採血した血液を試験管に入れて静置すると、細胞成分は沈殿し、その他の物質は上澄みとして分離します。この上澄みの液体成分を血漿と呼びます。病気になると、この血漿の中に、炎症性物質や自己抗体という異常な物質が出現することがあります。これらを含んだ血漿を血液浄化装置を使って一旦除去し、正常な血漿と交換することで、病状の改善を図る治療法が血漿交換療法です。

ガンマグロブリン不応性川崎病に対する血漿交換療法

川崎病の新規患者数は過去20年間で増加の一途を辿っており、少子化時代にも関わらず今では年間12,000人以上の小児患者が新規発症しています。川崎病に対しては様々な治療法が開発され有効性が示され始めていますが、川崎病の主要な後遺症としての冠動脈瘤や巨大冠動脈瘤の頻度は減っておらずここ数年で横ばいというのが現状です。

およそ8割の患者は、ガンマグロブリンとアスピリンによる標準的な治療で治りますが、それでは治らず、さらにステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤といった川崎病に有効とされる薬剤を2種類以上組み合わせても治らない難治例もあり、一部に重篤な後遺症を残します。

当院では、兵庫県を含め他府県からも積極的に川崎病の難治例の小児患者を受け入れて来ました。
当院では難治例の方々の重症度を見極めて、①ステロイド療法 ②免疫抑制剤 ③生物学的製剤 ④血漿交換療法という国内で施行できる治療法4つを使い分け、その時に最も必要な治療法を選択できる診療体制を取っています。①〜③の治療であれば小児科病棟に、④の治療であればPICU(小児集中治療室)に入院していただきます。

血漿交換療法は、患者体内の血漿成分に含まれる川崎病の炎症の原因となる物質(主にはサイトカインと呼ばれる蛋白質)を物理的に除去する治療で、一般的には難治性川崎病に最も効果があると位置付けられている治療法です。当院では、生後1か月の方でも安全に施行できており、国内有数の施行件数の実績があります。解熱や冠動脈後遺症の治療成績も良好です。

血漿交換療法の実際

ブラッドアクセスカテテールの留置

血漿交換療法を行うには、血液をいったん体外に取り出す必要がありますが、普通の点滴のように手足の細い血管からは必要な血液量を取り出すことはできないため、中心静脈と呼ばれる太い血管にブラッドアクセスカテーテルという特殊なカテーテルを入れる必要があります。

血管としては、小児では首の静脈(内頸静脈)を選択することが多いです。


写真:ブラッドアクセスカテーテル

成人では局所麻酔で行うことが多い処置ですが、小児では通常安静を保てないことと、本人の恐怖心を取り除くためにも全身麻酔で行います。

川崎病に対する血漿交換療法の実際

1回の血漿交換で全ての病因物質が除去できるわけではありません。1日1回、1時間半〜2時間かけて行い、3〜6日間連続して行います。

血漿交換療法を行うと、血漿中に含まれる体に必要な物質も同時に除去されてしまいます。特にたんぱく質(アルブミン)は重要な物質であるため、除去した分だけ補充して人体に戻します。補充には、献血から作られた「アルブミン液」という血漿分画製剤を使用します。

なお、血漿中には、「凝固因子」という血液を固めるのに必要な成分も含まれており、これも血漿交換に伴い減少します。そのため、血漿交換直後は血が止まりにくい状態になっています。凝固因子は肝臓で常に合成されるため、1日も経てばある程度回復します。

また、血液を体外に取り出す治療であるため、わずかながらも血液も減少し、貧血になることがあります。

血液製剤と血漿分画製剤の違い

貧血や凝固因子の減少が進んだ場合は、輸血による補充が必要となりますが、(他人の)血液が原料である以上、輸血にはウイルス感染症のリスクがあります。現在の血液製剤は厳密な検査の上で供給されており、その可能性は数十万分の一、数百万分の一とかなり低いものですが、それでもゼロにはなりません。川崎病治療で必須のガンマグロブリン製剤や血漿交換療法で使用するアルブミン液も血液が原料ですが、これらは血漿分画製剤と呼ばれ、血液中の特定の成分だけを抽出したものであり、製造過程で様々な処理が行われるため、現在の医学で分かっているウイルスに関しては、その混入の可能性は限りなくゼロに近いものとなっています。そのため、当院で行う血漿交換療法においては基本的にはグロブリン製剤、アルブミン製剤だけで行い、基本的に血液製剤は投与していません。ただし、輸血を行わないと治療を行えない、または身体に危機が生じると判断した場合は血液製剤の投与も行います。

乳児期早期の方や心機能が非常に悪い方、呼吸困難がある方を除いて、原則として人工呼吸管理は行っていません。血漿交換療法施行中だけは機械と繋がっているため少し眠たくなる程度の鎮静剤を使用させていただきますが、それ以外の時間はベッド上で普通に過ごしていただきます。幼児期以降の方であれば、血漿交換療法施行中も鎮静薬を使用せずに、ベッドサイドでご家族と過ごしていただいて安静を図るケースも多々あります。安全面に十分に配慮した上で、できるだけ子ども達に負担がかからないように留意して治療を行っています。


※保護者の同意を得て掲載しています。

遠方の病院から転院して来られた方であれば血漿交換療法が終わって数日以内に、病状が落ち着いていることを確認した上で元々おられた病院に戻っていただいています。