心室中隔欠損手術の傷の大きさは? 小切開手術とは?

心臓の手術は、普通「胸骨」という骨を切って行います。傷口は通常このように胸の真ん中を切ります。

心室中隔欠損の手術も心臓の手術ですので、この傷が一般的だったのですが、手術自体の成功率が上昇し、安全に行えるようになってからは、あらゆる意味で侵襲(体に対するダメージのこと)を減らす努力がなされてきました。

「傷を小さくする」というのもそういった侵襲の少ない、低侵襲手術という取り組みの一貫で行われるようになってきました。また、傷は小さいほど美容的に良い、という考えから極端に小さくする試みもなされてきました。

しかし、いくら安全に行えるといっても心臓手術ですから、傷を小さくして手術自体が困難になり、時間がかかっては「低侵襲」とは言えません。

また、小さい傷を無理やり引っ張って広げて手術を行うと、傷自体は小さいけれど、治りが悪かったり、きれいに治らなかったりすることがあります。これではとても美容的とは言えません。

私たちは、この「低侵襲」と「美容的」の最適なバランスを考え、心室中隔欠損に対しては、胸骨部分切開 + 皮膚小切開での治療を採用しています。

胸骨をすべて切らず、開きやすい下部のジョイント部分まで(胸骨体)を切って、上の部分(胸骨柄)を残して、胸骨体をハの字に開き、十分に良く見えるようにして手術を行います。


胸骨体をハの字に開き、心臓・大動脈を観察しているところ
 

安全性が何よりも大事なので、心室中隔欠損の中でも肺高血圧がない比較的元気なお子様にこの小切開手術を適応しています。

この適応からこれまで(2005年1月から2021年5月まで)に208例の心室中隔欠損に対して胸骨部分切開 + 皮膚小切開手術を行い、99%以上の完遂率で手術を行っています。他の病気(心房中隔欠損や不完全型房室中隔欠損)も含めると、300例以上の胸骨部分切開手術を行ってきました。

切開ラインは、乳頭を結ぶラインから4-6cm程度となります。この傷ですと、かなり襟ぐりの深い服を着ても傷が見えません(コンセプトは「イブニングドレスを着ても見えない」)。

傷の上端は、皮膚に優しく、かつ体の他の部位に接触しないように特別に設計したオリジナル専用金具を使用して引っ張っています。

小切開のために設計された専用金具

無理に引っ張ることはしませんので、皮膚にかかる負担もすくなく、傷自体もきれいに治りやすいです。

術後は傷の状態を適宜観察して、テープ療法と言われる治療を行ったり、形成外科医師と連携したりして、出来るだけきれいに治るようにしていきます。

また、「低侵襲」に対する試みとして、自分の血を貯めておいて(自己血貯血)、他人の血液を使わない(無輸血)手術も15年以上行っています。自己血貯血手術に関しては、「心室中隔欠損手術に輸血は必要?」をご覧ください。

ひとくちに心室中隔欠損と言っても、そのあなの場所や大きさはひとによって様々です。場所という観点から言うと、肺動脈弁下型という比較的高い位置にある心室中隔欠損は小切開では閉じにくいとも言われています。当院では、上記のような胸骨部分切開に対する取り組みの中で、肺動脈弁下型の心室中隔欠損に対しても小切開手術(胸骨部分切開 + 皮膚小切開手術)を適応し、良好な結果を出しています。


肺動脈弁下型の心室中隔欠損:
左が患者頭側
 

ただし、この方法は胸骨がジョイントのところで十分に開くくらい柔らかくないとできません。ですから、体重でだいたい30kgくらいまでのお子様に適応させていただいています。それ以上の大きな方は、胸骨を全部切り、皮膚だけ通常よりもすこし小さく切る手術(胸骨全切開 + 皮膚小切開手術)を適応する場合もあります。

このように病気の状態、体の大きさなどにより手術法が異なってきます。

私たちは小児科、心臓外科に先天性心疾患専門チームがあり、専門的な診療を行っています。疑問点がありましたら、お尋ねください。また、メールでのご相談も受け付けております。

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